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最高裁判所第二小法廷 昭和37年(オ)143号 判決 1963年10月04日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人平岡義雄、同名和駿吉の上告理由第一点について。

原判決は、控訴人(被上告人)から訴外興国製薬株式会社(以下興国製薬と略称する。)に対し委託された合計金五〇万円の金員は、右興国製薬が発行すべき新株式の申込証拠金に充当されるべく当事者間に契約され、これを他に流用を許す趣旨ではなかつたこと、然るに右興国製薬は新株式の発行をなさず、被控訴人(上告人)の出席した同会社の役員会で右金五〇万円を同会社の経常費に流用費消する旨議決し、同会社の取締役副社長たる被控訴人において右金員を同会社の経常費に使用した旨その他原判示の如き事実を認定した上、右事実によれば、右興国製薬が控訴人の本件委託金五〇万円を同会社の経常費としたのは、同会社の取締役副社長たる被控訴人がその職務を行うにつき故意、少くとも重大なる過失に基づくものというべきである旨判示しているのであつて、右はその挙示する証拠関係、事実関係からこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は存せず、論旨はひつきよう、原審の認定にそわざる事実を前提として原審の適法になした証拠の取捨判断、事実の認定並びにこれに基づく正当な判断を非難するに帰し、採るを得ない。

同第二点について。

原判決は、前記金五〇万円の委託金は役員会の決議に基づいて前記会社の取締役副社長たる被控訴人において、これを同会社の経常費に流用費消したものであり、控訴人は昭和二九年一二月一〇日頃から同三四年四月末日頃まで販売及び倉庫係員として右会社に勤務してその間同会社の経理係補助もなした関係上、本件委託金費消の事実を了知した事実を認め得るが、控訴人が右費消につき承諾を与えたことは認め得ないこと、控訴人は昭和三〇年三月二〇日右会社の株主総会に出席した事実は認め得るが、右総会においては本件委託金について何等議題とされなかつたのであるから、控訴人が右総会に出席したというだけでは、いまだ被控訴人主張の如く、控訴人が本件金員の費消の点を承諾したと認めることはできないこと、および右会社は無資力のため控訴人に対し右金員を返済し得ない状態にあることその他前点掲記の各事実を認定の上、控訴人は被控訴人の右行為により同額の損害を蒙つたものというべきであるから被控訴人は商法二六六条ノ三の規定により控訴人に対し右金員を賠償すべき義務ありといわなければならない旨認定判示しているのであつて、右はその挙示する証拠関係、事実関係からこれを肯認し得るところであり、而して右判文自体から原判決は、右被控訴人の行為と控訴人の損害との間には相当因果関係がある旨判示したものと解し得られ、原判決の右判断もこれを肯認し得るところである。原判決に所論の違法は存せず、所論は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を前提とし、原審の適法にした証拠の取捨判断、事実の認定並びにこれに基づく正当な判断を非難するに帰し、所論引用の判例も本件に抵触するものではなく、論旨は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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